中国の仮面劇
京劇臉譜
京劇臉譜は、中国の伝統演劇の化粧法のことで、歌舞伎の隈取 (くまどり) と似ています。
隈取の基本的な様式は昔から決まっていましたが、同じ人物であっても流派や役者の違いに伴い、出来上がったものが変化してきています。
登場人物はその人物ならではの色と模様を使い、人物の性格や特徴を反映し、善悪の区別を出します。
目、鼻、口、眉、額に異なる図案と色彩が勾(筆で書く)・揉(すりこむ)・抹(塗る)・の技法によって施されます。中国人の持つ色に対するイメージ、形に対する感覚が表現されているといえます。
臉譜の源は古代の祭祀用のマスクにさかのぼるともいわれています。
「紅が最上の色と言われる理由はおそらく紅を人間の生命力の象徴としようとする中国人の古くからの呪術宗教的な一面に起因しているのだろう。いずれにせよ、京劇の重要な要素である臉譜とは、中国人が色に託したイメージで性格を表象させようという試みなのである。」趙梦林1992『京劇臉譜』
中国の色彩
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紅は最も尊ばれる色で、至誠、忠義を象徴している。代表は関羽である。・紫紅の次に尊い色で、血気んだが粛然とした性格を現す。紅や黒と併用し、若き日の直情・血気が年齢を重ねることで重厚さを増したことを示す。
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紫 紅の次に尊い色で、血気盛んだが粛然とした性格を現す。紅や黒と併用し、若き日の直情・血気が年齢を重ねることで重厚さを増したことを示す。
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黒 三国志の英雄・張飛や水滸劇の李逵など、沸き上がる激情をどうにも押さえられず、ついつい粗暴、過な振る舞いをしてしまうものの、実際は無私で真心の固まりのような性格を表現する。また、包公に代表されるように、顔形が醜いものの廉直である性格をも示す。
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白 白には猜疑、陰謀の気象が宿る。奸智に長けた武将は白を使う。曹操など典型的である。薄い白は必しも大悪という訳ではない。眉や目が細く描かれていればいるほど、奸計に長けた大悪人である。
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青 緑に近い性格である。邪神、妖怪、物の怪、妖気、化け物などの色。
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緑 藍色と似通った性格である。同じく凶暴でも緑は爆発気味、常に平静ではいられない性格を表す。
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黄 粗暴で陰謀をめぐらすが、それを表面に出さない人物に使う。勇戦する武将を示す。
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灰 壮年の血気も薄れた様子を表すため、光に反射しないように顔料の油分を抜く。若い時に黒色だった者が老境にある状態を示す。
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金 仏教の教典にある「身に金光を現す」にちなみ荘厳、厳粛を表す。神、仏に使われる色である。
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銀 金に次ぐ高貴な色である。比較的に地位の低い神や仏に使われる。
京劇とは〈北京の劇〉の意で,〈けいげき〉ともいいます。
また〈皮黄戯(ひこうぎ)〉ともよばれるのは,〈二黄(にこう)〉と〈西皮(せいひ)〉という本来異なった地方の二つの曲調が合体して,基礎がつくられました。
二黄は湖北・安徽に育った南方系音楽の特色をひく曲調で,1790年(乾隆55)安徽の女形役者,高朗亭の率いる一座によって北京にもたらされました。
西皮は,北曲系統の陝西の秦腔(しんこう)が湖北に伝わって南方化したものだといわれ,道光年間(1821‐50)初年には,それまで二黄を主用していた徽班(安徽人の劇団)が,この西皮をも併用することによって,〈皮黄戯〉すなわち京劇がその基礎を確立しました。
さらに西太后の手厚い庇護を受け北京独自の演劇として一層の発展、熟成がなされました。
清末になると「四大名旦(4大名女形)」と呼ばれた梅蘭芳、程硯秋、尚小雲、荀慧生の4人の俳優が上海での近代演劇を取り入れた演劇に触発されながら、京劇に一層の洗練がなされ、この4人は独自の流派を作るほど、京劇に革命をもたらしました。また梅蘭芳は初めて京劇の海外公演を日本で行ったひとりです。
※参考
色彩認識の象徴化―京劇の臉譜の表すもの―劉 渇氷 氏のレポートを参考にさせていただきました。